
上の写真はクニマスです、上あごが極端に短い(鼻の部分が欠けている)様子が見て取れます。近親交配の例として参考になると思います。奇形現象の一つ。※クニマスやその血統を批判する意図は一切ありません。
そもそも「近親交配」とは?
近親交配とは、血縁関係の近い個体同士で繁殖を繰り返すことです。
同じ親から生まれた魚同士(兄妹)、あるいは親子。
こうした組み合わせを何世代も続けると、遺伝的な偏りがどんどん強くなっていきます。
一見すると、同じ系統で揃っていて管理しやすいように見えますが、実はこの状態は、後々さまざまな問題を引き起こします。
成長率への影響
近親交配が進んだニジマスで、まず目に見えてくるのが成長の鈍さです。
例えば、同じ親を持つ兄妹交配(1世代)の場合、非近親交配のニジマスと比べ、1歳魚までの成長率は23%も低下したという報告もあります。
その次の世代(2世代目)の兄妹交配の場合、成長率の低下は33%にまで達します。
同じ水温、同じエサ、同じ管理、それでも明らかに大きくならない、サイズにバラつきが出やすくなる、という状態が起こります。
成長に関わる遺伝子の選択肢が減ってしまうことが原因です。
たとえ軽度の近親交配でも、長年蓄積していくと成長に悪影響を及ぼすことが懸念されます。
病気への抵抗力の影響
遺伝的に似た個体ばかりになると、病気への耐性も一様になります。
ある病原菌に弱い遺伝子を持っているということは、全体が一斉にやられるリスクが高い状態になるということです。
実際、アメリカで行われた実験では、近親交配した個体群は病気による症状がより深刻化したという研究結果もあります。
養殖現場においても、近親交配による退化が進むと全体的に魚体が虚弱になり病気になりやすいことが知られています。
逆に言えば、健全な成長と病気への強い抵抗力を維持するには、一定の多様性が必要で、できる限り近親交配を回避することが重要だといえます。
生殖能力への影響
近親交配が進むと、繁殖成績にもはっきり影響が出ます。
ニジマスの場合、近親交配を繰り返すほど産卵年齢が遅れたり、産卵数(卵の数)が減る傾向が報告されています。
受精卵や稚魚の生存率も低下します。(親世代の近親交配が次の世代の繁殖成績、発眼率や稚魚の生存率にまで影響を及ぼします)
奇形の発生
近親交配の影響で、もっとも分かりやすいのが奇形魚の増加です。
背骨の湾曲、顎のズレ、体型の異常など、本来なら表に出にくい劣性遺伝子が、同じ血同士を重ねることで表に現れやすくなります。
兄妹交配(1世代)の場合、奇形稚魚の頻度が通常より37%増加、近親交配の2世代目では奇形発生率が数倍規模で跳ね上がります。
実際の養殖現場においては、こういった稚魚期の奇形魚は、健康な稚魚に目玉やヒレなどをつつかれて死んだり、餌付けの段階でエサを取ることができず死んでしまい、出荷サイズになるまでにほとんどいなくなることが多いです。
こういった奇形魚が成長段階で背骨の湾曲などが原因で内臓を圧迫し、魚が大きいサイズになってから死んでしまうことがリスクとなります。
近親交配を避けるために
近親交配の影響は、すぐには出ないけど数年後に一気に出る、というのが一番厄介な点です。
重要なのは、計画的な更新。同じ系統、同じ親魚を何度も使いまわすと、近親交配による悪影響が蓄積していくため、数年ごとに新規の血統に更新することや、非近縁の種苗や親魚を導入して血を入れ替えることで回復できます。
一度近親交配が深刻化すると、新しい血統導入しない限り回復は難しいと言われています。
計画的に親魚を更新し近親交配の蓄積をリセットすることで、成長・病気・繁殖・奇形のリスクは大きく下げられます。
ニジマスに関わらずですが、遺伝の歪みは、必ず後々結果として現れます。
養殖業者側としては、別の系統を混ぜるというのは、はっきり言うと面倒、違う血筋の魚を仕入れないといけない、当然余計な経費もかかります。
病気に弱い親魚を入れてしまい、かえって生産効率を落としてしまう可能性も十分に考えられます。
こういったところは生き物を育てるうえでかなり難しい部分ではありますが、長期的な目線で見ると、遺伝子レベルのリスクを減らすことができ、結果的に健全な成長につながります。
しかし実際の現場では問題点も多く、なかなか思い通りに行かないというのが現実です。
最後に
歴史上、近親交配の影響がもっとも分かりやすく現れた例として、ハプスブルク家があります。
昔ヨーロッパを支配した名門大家ですが、血統を守る(権力やお金を守る)ために近親婚を重ねた結果、身体的異常や虚弱体質が世代を追うごとに増え、最終的に王家そのものが衰退しました。
これは人間の話ですが、理屈はニジマスでもまったく同じです。
同じ血を守ることを優先しすぎると、必ずどこかで歪みがでます。
だからこそ、たくさん増やすことよりも、健全な血の流れを保つことが重要ということです。
「血を閉じたものは、必ず弱る」これが歴史と魚が教えてくれた事実です。