釣りをしていて、魚が掛かった瞬間――
「おっ、これは引きが強いぞ!」と思ったこと、誰でも一度はあるはずです。
でもちょっと待ってください。
その魚、本当に“強い”んですか?
それとも、ただ“重い”だけじゃないですか?
「重さ」が与える錯覚
格闘技の世界を見れば、シンプルな事実がわかります。
体重が重い方が、強い…
これはほぼ絶対の原則です。
なぜ力士は、必死に稽古をし、食べて体を大きくし続けるのか?
それは、大きく重いことが、勝負の世界で圧倒的に有利だから。
この記事を読んでいる方の中に、格闘技経験がある方がいれば、すぐに納得していただけると思います。
体重差は、パワーだけでなく、技をかけたときの「効き方」にも圧倒的な影響を与えます。
魚も、ある意味同じです。
単純に「重い魚」を釣れば、当然引きも強く感じます。
でもそれは、「強い」わけじゃなく、「重いからそう感じている」だけかもしれません。
管理釣り場用と食用は違う➡この違いは釣った時のファイトに直結する
多くの釣り人が勘違いしていること。
それは、食用と釣り用を混同して考えてしまっていること。
食用に育てている魚は、最優先すべきは「味、身が赤いか、脂がのっているか」、ということです。
食用メインで出荷している会社の魚をよく見るとわかりますが、ヒレがボロボロ、魚体は擦れている、でも問題ありません。
身が赤ければ食用業界では高く評価されます。
最近めっきり聞かなくなった「ゾウキンマス」
しかしこういったボロボロの魚は、釣り業界では「ゾウキンマス」と呼ばれ、評価が低くなるんです。
近年はトラウトの食用と釣り用、ともに需要が伸び続けており、マス養殖業界全体で供給不足に陥っていることもあり、管理釣り場側は文句ひとつ言わずに、どんなにボロボロの魚でも放流するようになってきました。
供給不足である状況では、購入側がクレームをつけると、「文句を言うなら、もうおたくには売らないよ」「じゃあ他から買ってね」と言われてしまうのがオチ。
そして、そんな魚を放流するうたい文句として、「赤身で美味しい魚ですよ!」「こんなにデカい魚ですよ」「~マスっていうブランド魚ですよ」という宣伝が広がっているというのが現状です。
本来の管理釣り場の魚は「ただ重いだけ」の魚とは一線を画す
私たちのような管理釣り場用に特化した魚を生産している養魚場では、人為的に魚をよく泳がせ、パワーとスタミナをつけさせます。
池の密度を薄くし、魚同士がぶつかって擦れたり、魚にかかるストレスを極力減らすことで、釣りの要となる「ヒレ」を守りぬく。
健康なヒレは、推進力そのものであり、魚の運動能力=引きの強さに直結します。
こうして出来上がるのが、「本物のファイター」たちです。
そもそも「味」や「赤身」にこだわってない
はっきり言います。
私たちは、魚の味や切り身の見た目を良くしようという目的で育てていません。
あくまで、魚本来の運動性能で引きを楽しんでもらうことを目指しています。
つまり、うちの魚の「引き」は、重さでごまかしていない。
鍛え上げられた体と、綺麗なヒレによる、本物のパワーで引いているんです。
じゃ引きが強い魚は「美味しくない」のか?
ここで勘違いしてほしくないのは、
引きが強い=美味しくない 「ではない」ということ。
現在出回っている養魚場のエサは、育成スタイルを問わず、ペレット(配合飼料)に工夫してあります。
現代のペレットは、どこの飼料メーカーであっても、身の質、味を向上させる成分がしっかり練りこまれており、十分美味しい身に仕上がるよう、緻密に計算されて作られています。
つまり、
・釣りを楽しませる強い引き
・食べてもおいしく満足できる味
この両方をある程度のレベルで両立できる時代になっているのです。
食用魚を育てている会社の魚は、「脂ものって身も赤く、めちゃくちゃ美味い」まさに食用に特化した魚、ということです。
本当に楽しいのは、「重さ」じゃない
「重いな」ではなく、「強い!」と感じること。
重い魚に引きずられる感覚も悪くはありません。
でも、本当に感動するのは、水中で縦横無尽に走り回り、最後の最後まで抵抗する魚との勝負です。
それは、軽量級の格闘家が、スピードとテクニックで巨漢を倒す瞬間に似ています。
体重だけに頼らない。
次に竿を曲げたそのとき、ぜひ感じてみてください。
重さじゃない。速さと力強さ。
それが本物の「引き」なんだということを。