魚の生産において、病気、水質や水温、エサの話はよく出てきます。
大きな影響を与える要因としては、自然環境の変化なども含めさまざまありますが、意
外な要因であまり語られないのが、稚魚期の鳥獣による被害です。
それもカワウやサギのような大きな鳥だけではありません。
稚魚期は、いろんな意味でいちばん無防備な状態です。
体が小さく動きも遅く、水しぶきの音や何かが動く影が見えるとすぐ寄ってきて、池に落ちたものはなんでも口にします。
いつも思うのが、魚も動物や人間の赤ちゃんとほとんど同じです。
警戒心などみじんもありません。
そのため魚を狙う動物や鳥などの捕食者にとっては格好のターゲットになってしまいます。
この稚魚の時期に被害が出ると、一気に数が減り、後から生産出荷の計画が崩れるといった形でジワジワ効いてきます。逆に言うとこの時期にどれだけ鳥獣の被害から守れるかで生産量が大きく変わってきます。
意外な盲点

カワウやサギ以外で、稚魚期に特に被害がひどいのが「カワガラス」です。↑
川辺に普通にいる、見た目はこげ茶色の小鳥です。スズメより少し大きいくらい。
「カワガラス」というので誤解しやすい名前ですが、カラスではありません。
このカワガラスという鳥は、狭い洞窟のような穴場や、山の岩の隙間などに巣を作っています。
孵化場などの屋根のある建物でも、ほんのわずかな数センチの穴があれば侵入します。池に鳥よけネットをかけても、わずかなネット切れ目や、ネットをかぶせた時の池のヘリとネットの間からくぐって池に入ってきます。
かなり器用な鳥で、ネットに絡まったことはこれまで一度もありません。
水の落ち口(注水口)から出入りでき、水流があっても関係ありません。
この鳥は、そもそも川の水中で小魚や虫を捕食する鳥であるため、羽根が撥水の役割をしていて、体が水にぬれることはありません。
水中で小さな小石などをひっくり返して石の下にいる水棲昆虫を食べることもあるようです。
とにかく機敏でエサがある場所ならどんな狭い場所でも侵入する鳥です。
まさか養殖場で小鳥が稚魚を食べるなんて思う人はほぼいません。
たかが小鳥だし、もし食べられても大した被害ではないと思う人もいます。
ですが実際は、魚が孵化して餌付けの段階になると、孵化場に必ず現れ、孵化場内はカワガラスの糞まみれになります。
すばしっこく飛び回り、孵化場の扉を開けた瞬間逃げていき、人がいなくなるとまた孵化場へ入っていきます。
体が小さく、飛ぶスピードも速いため、監視カメラの自動検知機能も役に立ちません。カメラが自動で録画しないため、肉眼でしかみえません。
毎日糞が増えているのを見ると、すぐに何か対策をしなければ...とも思いますが、
モスキート音や光と音で威嚇する機械やベトベトするネズミ取りや、ここではあまり細かく書けない対策など、いろいろ試してみましたが効果はあまりなく、あっても最初だけです。
理由が分からないまま魚の尾数が減っているというケースはよくありますが、稚魚の時点でこういった鳥に捕食されていることが多いと思います。
カワガラスだけでなく、その他にもテン、イタチ、猫、場所によってはミンク、コガモ、カルガモ、オシドリ、ヤマセミ、カワセミなど、稚魚を狙う鳥獣はたくさんいます。
カワガラスについてはうちだけの問題かわかりませんが、こういう内容を公に書いている人がほぼいないだけで、実際に話を聞いてみると、どこの養殖場もいろいろな鳥獣被害はでています。
出荷する時になってはじめて数が減っていたことに気づくことも多いです。
※ちなみに…コガモ、オシドリも油断できない鳥です。
稚魚を外の池に移動させた後、カワウ、サギ以外だと、コガモとオシドリによくやられます。(鳥や動物の種類は養殖場や場所によってさまざまだと思います)
どちらも潜って稚魚を食べます。
冬はコガモは10羽以上の群れで来ます、一羽の食べる量が少なくても稚魚が小さいと全体としてはかなりの尾数が減ります。
オシドリは雄雌ペアが、2ペア~3ペアくらい。監視カメラを見ていると、想像以上に良く食べます。また、オスは稚魚をついばんでは吐き出すという行動を繰り返し、食べずに遊ぶこともよくあります。
本当に厄介なのが、防鳥ネットを張ってもわずかな隙間から入ることです。
排水口まわり、ネットの境目などのわずかな隙間です。
人の目には「これ、入れないでしょ?」という隙間でも、鳥は入ります。
しかも、一度侵入ルートを覚えると繰り返します。
ですが鳥の数も多いため、コガモやオシドリはネットやラインに絡まることはよくあります。
危険をかえりみず、防鳥ネットに真上から突っ込んでいくこともあります……神風の血を受け継いでいるのでしょうか??
ラインに絡まった、生きているオシドリを素手で掴んだこともありますが、かなりの力のある鳥です。その後の処置はご想像にお任せします……
こんな鳥たちと年中戯れるような仕事ですが、鳥の種類によって「駆除の許可が下りない」という法的問題が一番やるせない部分です。
カワウは被害が認知され、対策・駆除の議論が進んでますが、その他の鳥は基本的に駆除不可です。
例えば、日本にいる鳥で「白い鳥」は撃ってはいけないことになっています。
なぜかというと、「環境省」というとても偉いお役人様たちがいるのですが、狩猟鳥獣を決める際の「選定基準」というのがあり、その中に、
・「国民の適正な利用(愛玩、観賞等)を妨げないこと」
・「地域住民の感情に配慮すること」
という項目が含まれています。
水辺に白い白鳥やサギがいる風景は、古くから日本の素敵な景観の一部になっていました。
だからこれらを「撃ってもいい鳥」にして数が減ると、景観が悪くなります。
そのため観賞価値が高く、景観がよくなる鳥は、狩猟禁止にしているわけです。
「白い鳥は景観をよくするから守るべき」という意見がある一方で、「実害があるから駆除すべき」という意見もあります。
例えばサギ類は、養殖場や釣り堀、川の鮎などを大量に食べてしまうため、内水面漁業関係者(河川水や地下水を使って魚を養殖している人たち)からは、「狩猟鳥にしてほしい」「有害鳥獣としてもっと簡単に駆除させてほしい」という要望が何度も出されています。
ですが、やはりサギは綺麗な鳥だから、景観が良くなるから狩猟対象にすべきではないという見方が強く、今も狩猟鳥には指定されていません。(一部地域では有害駆除は可)
サギに限らず、法的に守られている鳥というは、すべてではありませんが基本的にきれいな鳥が多いです。(ちなみに白鳥はイギリスの貴族の食べ物だから、日本では狩猟が禁止されてます)
オシドリもその通りで、見た目はとても美しい鳥で、「おしどり夫婦」という言葉ができるほど、昔から日本人に好かれてきました。
だから撃ってはダメです。地域住民の感情に配慮しているというわけです。
じゃあ逆に、黒い鳥は色が汚いから撃っていいのかという話になってしまいます。
黒い鳥(例えばカラス)は、ごみを荒らし、農作物被害の実害がでていることもあり、人間から嫌われやすく、駆除や狩猟の対象にされやすいです。
法律の建前は「実害があるかどうか」「個体数が多いか少ないか」ですが、「きれいな鳥だから、観賞価値が高いから」などという理由で、実害の有無は関係なく、人間が鳥の見た目を綺麗と思うかどうかが、撃っていいかダメかというルールを決めている部分があるということです。
また話がズレたのでこのあたりで終わりにします。


