最近、「SDGs」「持続可能な未来」「地球環境にやさしい」といった、「環境に貢献してます」ということを前面に押し出す企業が増えています。※具体的な会社名は伏せます
マス養殖分野においては大きな企業の参入が相次いでいる、「閉鎖循環式養殖」があります。
そんな閉鎖循環式養殖の現実、そしてSDGsの落とし穴について考えます。
なぜ今、閉鎖循環式養殖が注目されているのか?
ここ数年、国や地方自治体の補助金や支援金を使った「閉鎖循環式陸上養殖(RAS)」が各地で増えています。
・同じ水をろ過して繰り返し使うため、水資源の節約になる。
・汚水排水が少なく、環境に良い。
・安定生産できるため、生産性が向上する。
・都市部など、天然の水が豊富にない場所でも生産できる。
・病気のリスクが低い。
こういったことを聞くと、環境負荷が少なく持続可能なようにも思えます。
まるで水産業の理想形のように語られるこの養殖方法ですが、本当にそれは“未来の漁業”と呼べるものなのでしょうか?
SDGsの観点から見る閉鎖循環式陸上養殖の理想と現実
閉鎖循環式陸上養殖とSDGsとの相性は?
一見すると、SDGsとの相性は良く見えます。
目標6(安全な水) → 水の再利用で節水
目標12(つくる責任) → 排水・排泄物の管理が可能
目標13(気候変動) → 台風・災害の影響を受けない
目標14(海の豊かさ) → 海洋汚染リスクゼロ
しかし、これらは“理論上”の話。
実際に現場で起きていることを見てみると…
「環境にやさしい」➡「電気ガンガン使ってます」
「水を再利用しているから環境負荷が低い」と語られがちですが、実際は
・水温を一定に保つために大量の電力を使っています。
・酸素供給装置やポンプは24時間稼働
・バックアップ電源も必須(停電リスク対策)
→結果、化石燃料由来の電力に頼ってCO2を排出しています。
中には太陽光発電や蓄電システムを組み合わせて電気使用量削減するというところもありますが、その養殖に必要な機械を製造すること自体に大量の電力を使い、CO2を排出してます。また運用コストと設備投資が高すぎます。
「自然に優しい」「持続可能な食料生産」「未来の養殖」これらの言葉を使えば、たとえ採算が合わなくても、なぜか”いいことをしている”ことになってしまう。
そしてその”イメージ”や‘”理念”が先に立ちすぎて、みんなが納得してしまっている。
こういうことをあまり言いたくないのですが、きれいごとを並べて税金を使っているだけではないのか?と思ってしまいます。
なんとなく「きれいな言葉」が一人歩きする時代だからこそ、もっと本質に目を向けるべきだと思います。
採算性の壁:儲からない未来技術
閉鎖循環式陸上養殖は、初期投資が非常に高額です。
施設建設、設備、バックアップシステムまで含めれば数億円規模です。
数億円かけて施設を建て
毎日電気が唸るように回り続け
電気代に加え、機器メンテ(ろ過装置、酸素供給装置、バックアップ電源…)
そして人件費などのランニングコスト
→ どうやって回収する?
→ 何年かけて黒字になる?
これが持続可能と言えるのか?
そしてこのお金の出どころは補助金や助成金、つまり、「税金」です。
資本主義経済の原理原則から外れていないか?
・設備投資にいくらかかるのか。
・その設備、システムを導入することで年間何トンの魚を生産する見込みなのか?
・その設備の維持管理やその他のランニングコストがいくらかかるのか?
・1Kgの魚を生産するのにどれくらいの経費がかかるのか?
・その魚1Kgをいくらの値段で、年間何トン売れば利益がでるのか?
・何年かけて投下資金分を回収する見込みなのか?
補助金を使うならなおさら、こういった至極当然のことをしっかり考え、健全に利益を出し、納税してこそ、持続可能と呼べるのではないでしょうか。
補助金、支援金に頼った挙句、「利益はでません」であるならば、それは「未来の養殖」ではなく、「一部の人だけの養殖」です。銀行からお金を借りたら返済しなければいけないのが当然です。どうせ税金使ってるんだから返済しなくてもいい→ならば、その事業は金と権力がある一部のプレイヤーに限られるわけです。まるで社会主義のような構造にも思えてしまいます。
閉鎖循環養殖の多くが、補助金やSDGsの名のもとに推進されています。
「環境にいいことしてます」
「最先端技術で地域活性」
「持続可能」
そうした大義名分の裏にあるのは、実態の見えない“SDGsごっこ”かもしれません。
本当に持続可能な漁業とは?
「SDGsごっこ」というちょっと過激な書き方をしましたが、閉鎖循環養殖を否定するつもりはありません。
・海洋汚染の防止
・病気の拡散リスク低減
・安定供給の実現
これらは今後発展していくことの意義は非常に大きいです。
ですが“持続可能”という言葉を掲げるなら、以下のような漁業こそ再評価されるべきです。
・自然水を活かしながら、水質と魚の健康を両立させる
・地域に根付き、地元の気候・地形・文化に適応した養殖手法を使う
・魚と自然、社会との関係性を理解しながら経済を回す
・資本主義の基本原理原則に従う
最後に
ここ数年の間で、すごい勢いで盛り上がりを見せているこの「閉鎖循環式養殖」は、さまざまなメディアにも取り上げられ、多くの養魚関係者が関心を寄せていると思います。
どこを探しても、悪い情報が出てこない。良いイメージだけが一人歩きしている。
これまで養殖に携わった経験がない会社が、国や県、自治体がバックにつくことで、税金を使い、ゼロから一気に莫大な設備投資をして大量生産に踏み込むという時代です。だからこそもう一度本質に立ち返って考える必要があると思っています。
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