卵を産むために生まれた川に戻る母川回帰は、マスの種類によって遡上する時期が異なります。
例えばサクラマスの場合は春に遡上を始め9月から10月頃に産卵します。
ニジマス(スチールヘッド)の場合は遡上する地域によって回帰時期は前後しますが、おおむね夏ごろには遡上し、5月頃までに産卵すると言われています。
サクラマスはおよそ半年、スチールヘッドはおよそ10カ月もの間、産卵するまで河川でエサを食べずに過ごします。
その代わり海で十分エネルギーを蓄え、河川では何も食べず長い期間を産卵に備えます。
ではなぜ遡上したサケマスは釣れるのか?
産卵のために河川に遡上した魚はエサを食べないと言われているのに釣って楽しむことができるのはなぜか。
実際サクラマスやスチールヘッドをターゲットに釣りに行く人もいますし、サクラマスが小魚や昆虫を追いかけたり捕食しているところを見たことがあるという人もいるのは事実です。
ルアーフライで釣れる理由としては、産卵の為だけに遡上するとはいえ河川で生まれ育ったときの記憶が残っていて反射的に捕食したり、海で成長した過程で身に付いた闘争心や捕食行動によるものと言われています。
では結局河川でもエサを食べるという結論になると思うかもしれませんが、正確には獲物を食べる行動まではしますが、消化まで至らないということになります。
ある研究によると産卵のため遡上してきたサケマスを調べた結果、体内の消化酵素が働いていないことが明らかになっています。
つまりエサを食べてもそれが生活や行動のためのエネルギーに変換されないということです。目の前にいる小魚や昆虫、ルアーフライなどに反応するのは反射的なものだと考えられます。
なぜわざわざ食べたのに消化酵素が働かないのかについては、遡上から産卵までに必要なスタミナを海にいる段階ですでに補給しており、改めて捕食してエネルギーに変換する必要がないという説や、河川にはそもそも栄養を摂取できるだけのエサがないということを遺伝子レベルで知っているという説などと諸説あります。
ここではスチールヘッドやサクラマスを例に出していますが、アトランティックサーモンやイワナ(アメマス)などほとんどのサケマスが同じで、遡上し成熟すると消化酵素が働いていないことが分かっています。
これが遡上するマスはエサを食べないと言われていてもルアーフライには食らいつくという理由になります。
ちなみに食べた獲物が消化されなかったらどうなるんだ? と思うかもしれませんが、これは食べた後に吐き出していると思われます。
実際に私が養殖場でギンザケを育てているとき、成熟したギンザケ(体内の消化酵素が働いていない魚)に養殖場で使用しているペレットを与えたところ、食らいつくものの、数十秒~数分後にはそのペレットを吐き出しているのが確認できました。
これと同じようなことが自然界でも行われていると思われます。